気まぐれログ(シトロエンC4の巻)
今回のクルマはシトロエンのC4です。
このコラムでは何度か書いていますが、私は個人的にシトロエンに思い入れがあります。それは、以前このメーカーのBXというクルマと生活を共にしていた時期があり、その記憶が今なお鮮烈に残っているからです。シトロエンにはクルマを超越した何かがあると私は思っています。
しかし、90年代以降、このメーカーも国際化の波にもまれ、その独特な個性を失わざるを得なくなっていったというのが実情です。そんな悲しい現実を憂うシトロエン・ファンの声が届いたのか、先に登場したC3以降、俄然魅力的な車をリリースするようになってきたこのメーカーの最新作がC4というクルマです。
まずは外観から見ていくことにしましょう。
今回リリースされたC4には、サルーン(5ドアハッチ)とクーペ(3ドアハッチ)があるのですが、そのスタイリングは、歌舞伎の隈取をモチーフにしたようなフロントマスクが共通な以外、まったく別のクルマといっていいほど違うものです。
パッと見の印象は、サルーンが日産プリメーラ似、クーペは昔のホンダCR-X似といったところ・・・・。DS・GSやCX・BXといったクルマをリリースしていた頃の、「我が道を行く」スタイリングとは隔世の感がありますが、これでも良くなってきたほうです。
ただし、そのクオリティーだけは、かつてないほど高いものになっていて、各部の造り・建て付けも、ゲルマンのクルマに負けません。同じプラットフォームを使うプジョー307に比べても然りです。
そして、内装です。
私は、このインパネまわりを見て、思わず「やったね!」と叫んでしまいたくなりました。
斬新な透過式液晶パネルを用いた独立型センターメーター。各種操作系・インジゲーターを備えたセンターパットが固定で、リムだけが回転するステアリング。
実は、新しいのはこの2つだけなのですが、その印象は強烈で、デザインセンスも並ではありません。まるで現代美術の作品を見ているかのようで、文化の国フランスの面目躍如といったところです。もちろん実用性も損なってはいません。
また、各シートの造りは最新ヨーロッパ水準に沿ったもので、質は高いのですが、かつてのフランス車が持っていたソフトな印象が薄らいでしまったのは残念です。
乗員空間も現代のクルマとしては平均的なもので、不満はありませんが、ここでもかつてのようなロングホイールベースが取れれば、リムジン並みの室内が得られるのに・・・・と思うとやはり残念です。しかし、プジョー傘下での限界があることも理解はできます。
一方、ラゲッジスペースは伝統で、特にリアサスペンションの出っ張りがなく、横方向に広いスクエアな空間を得ているのが美点です。
試乗しました。
可変バルブタイミング付2.0リッター4気筒DOHCエンジンに、AL4と呼ばれるフランスメーカー共同開発のシーケンシャルモード付4速ATを組み合わせた2.0エクスクルーシブ(5ドアハッチ)というクルマです。
まず、乗り込んでドライビングポジションを決めますが、このときの自由度は高く、最新欧州基準をクリアしています。もちろん小柄な日本人にも対応しており、この辺は抜かりがありません。
モダンな計器類を眺めながら、いざ発進です。件のステアリングですが、実際に使ってみると、まったく違和感はありませんでした。むしろ、何故このようなシステムのクルマがなかったのかが不思議なくらいです。
走り始めれば、さすが「パリダカの雄」で、エンジンとトランスミッション、サスペンションのマッチングに文句のつけようはありません。決して小さなクルマではないのですが、まさに自分の手足の延長よろしく、自由自在に、きびきびとクルマを操ることが出来るという印象です。
そして、乗り心地は、一言でいえば「ねばり腰」であり、どんなワインディングでも足を離すことはありません。これは「道をねじ伏せていく」ゲルマン車とはまったく別の方向性ですが、フランス車独特のもので、これはこれで、とてもいいものです。
ただし、「空飛ぶ絨毯」、「ウォーターベット」とも例えられ、ウルトラフラットな乗り心地を提供する同社のハイドロニューマチックサスペンション搭載車とは、あくまで別物で、どちらかというとプジョーの「猫足」に近い感じのものでした。
いずれにせよ、サルーンのしなやかな乗り心地とスポーティーさの高度な両立は他に得難いもので、大いに評価できます。
その他、左右の見切り・取り回し等に問題はありませんでしたが、ブレーキの効きだけはシトロエンの伝統でクイックなので注意が必要です。
総評です。
実は、このところの「シトロエン・ルネサンス」には訳があるのです。それは、ジャン・ピエール・プリエという気鋭のデザイナーの就任であり、それは「ルノーのパトリック・ルケマン」や「アルファのアンドレアス・ザパティナス」、近いところでは「日産の中村史郎」と同じような効果をもたらしていると私は考えます。
プリエ氏は公私共に認めるシトロエニストであり、昔のシトロエンにも造詣が深いということなので、このようなデザインをすることが出来たのでしょう。
さらに彼は、これまでの集大成としてデザインする、次期フラッグシップC6を「CXに対するオマージュ」にすると公言してはばからないので、大いに期待が持てます。
個人的には、このC4というクルマ、正直物足りないところもあるのですが、デザインの志自体は充分認められますし、将来への布石となることも間違いないでしょう。
あとは、多くのシトロエン・ファンが望んでいる、「ハイドロニューマチックを採用した小型車の復活」なのですが、これだけは実現性が薄いと言わざるを得ないのが残念です。
でも、「あのインパネだけでもC4を買う価値があるのでは?」などと思ったりして・・・・
つくづく私はシトロエンに惚れているんだなあ、ということを実感した今回の試乗でした。
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